シリコンインプラント
人工物を用いて再建する場合には、シリコンインプラントを使用します。
若年の乳がんの患者さんの場合、将来の長い期間において、対側での発がんの可能性を考慮すると人工物での再建をお勧めします。
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3社製品の比較については廣川のブログを御覧ください。 |
乳房切除からエキスパンダー挿入
乳がんの手術のあと、乳腺を切除すると、大胸筋という筋肉が出てきます。この大胸筋の下にエキスパンダーという器具を挿入します。なるべく厚く、血流のよい組織で覆った方が異物が露出しにくいからです。
手術のあと数日間は痛みを伴います。手術中に100mlくらいの水をいれるので、少し胸にふくらみがある状態で手術室から戻ってきます。
手術のあと、傷跡に血液やリンパ液が貯まらないようにドレーンという血抜きの管が入ります。このドレーンから出てくる体液の量が減ってきたらドレーンが抜けて退院できます。
ドレーンが抜けて退院したあと、胸が揺れると、またリンパ液が溜まってしまうので、手術のあと1ヶ月は胸が揺れるような運動はしないでください。
皮膚を伸ばす
その後の外来で、半年から1年くらいかけ、エキスパンダーに少しずつ水を注入し皮膚を伸ばしていきます。
反対側の乳房より2割ほどおおきくしたところで、シリコンインプラントなどへのいれかえの手術をします。
シリコンインプラント入れ替え
シリコンインプラントへの入れ換え手術は全身麻酔で1時間程度で完了しますが、1週間程度の入院が必要になります。
再建の経過
以下は症例写真です。シリコンインプラントは沢山の種類がありますが、既製品なので、反対側と完全に同じかたちにはなりません。
適用条件:こんな方に向いています
両側乳がんの方、人工物を希望する方
若年の方はなるべく人工物での再建がおすすめです。
なお、がんの進行度がStageⅡまでの早期乳がんの患者さんにしか保険適応は認められておりません。
利点:体への負担が軽い術式
シリコンインプラントは体の他の部分に傷を生じないし、手術時間も1-2時間と短いので、身体への負担は軽いです。
合併症リスク
エキスパンダーやシリコンインプラントは人工物ですので、自家組織に比べれば、どうしても合併症リスクが高くなってしまいます。
発症頻度は5%程度ですが、一旦手術により人工物を取り出さなくてはなりません。なお、術後放射線治療を要する場合、このリスクは5倍になります。
BIA-ALCL(ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)は、数千から数万個に1個の極めてまれな疾患です。術後長期経過後にインプラント周囲に液体が貯留するなどの症状で発症します。早期ならばインプラントの摘出で治癒します。
経年劣化、破損に伴うリスク
物理的衝撃によって、 エキスパンダーやシリコンインプラントが 破損してしまった場合は、 新しいものに入替えるため 再手術 をしなくてはなりません。
人間の身体には、挿入した異物の周りに被膜をつくる性質があります。個人差はありますが、被膜が厚くなり、シリコンインプラントに硬化やひきつれが生じ、被膜拘縮を起こすことがあります。その場合にも再手術を要します。
一生の間に再手術を要する人は3~5割程度といわれています。この場合の再手術は1時間程度、入院期間は1週間程度です。
まとめ